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2006年8月 5日 (土)

日本国憲法の系譜(2)

 パリ不戦条約(1928年)を引用したことがある。

http://3courage.cocolog-nifty.com/kenpo/2006/05/post_f19d.html

 その時は、パリ不戦条約が日本国憲法9条1項に酷似しているという点を再確認するためだった。
 改めて読んでみると、パリ不戦条約の第1条は、「締約国は、国際紛争解決のため、戦争に訴うることあらずとし、かつ、その相互関係において、国家の政策の手段としての戦争を放棄することをその各自の人民の名において厳粛に宣言す」(ひらがな表記に変更している)とし、締約国の「国際紛争解決のため」あるいは「国家の政策の手段として」の「戦争」を禁止している。
 そして、(自衛のためを除く)戦争が違法なものとされたのは、このパリ不戦条約が最初だと説明される(岩波新書「改憲は必要か」157頁など)。
 そのため、第2次世界大戦では、いずれの側も「自衛」を主張した。前には、日本がパリ不戦条約を反古にしたと書いたが、日本が「自衛」を主張したのは、このパリ不戦条約を意識していたからにほかならないし、少なくとも表向きは、パリ不戦条約が認める「自衛」戦争だったのだ。反古にしたというのは、その実質(侵略戦争)に着目して指摘したものである。

 しかし、いずれにしても、結局、パリ不戦条約は、あの悲惨な第2次世界大戦を防ぐことができなかった。

 第2次世界大戦後に作られた国連憲章(1945年6月調印)は、その反省の上に立ったものであったことは間違いない。
 国連憲章前文は、「われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、・・・」で始まる。
 そして、国連憲章は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」とした(第2条4項)。戦争のみならず、「武力による威嚇又は武力の行使」さえも禁止したのである。
 ただ、国連憲章は、2つの例外を認めている。
 1は、第7章において認められた平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為に対して安全保障理事会が決定して実施する「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動」である。
 2は、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」の「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」の個別的又は集団的自衛の固有の権利に基づく自衛権の行使である(国連憲章第51条)。

 しかし、この国連憲章調印後、とんでもないことが起きてしまった。1945年8月、広島、長崎に人類史上最悪の大量殺戮兵器である原爆が投下されたのである。
 その威力は、世界の人々を恐怖に陥れた。核兵器が、「自衛」の名の下に使用されれば、人類は、その存続さえ危うくなるという最終兵器の性格を持つ。

 2度と核兵器が使用されてはならない。それがたとえ自衛のためであっても。
 その人類の願いの結晶こそが、日本国憲法(1946年11月3日公布)だと見るべきではないか。
 日本国憲法には、我々の先達の瑞々しい人権思想が脈々と受け継がれていることも事実だが、日本国憲法制定当時の日本人を含めた世界の人々の思いがこめられている。

 残念ながら、日本国憲法と同様の徹底した理想を掲げる憲法は、未だ日本以外には存在しない。しかし、だからこそ、唯一の被爆国である日本は、他国に向かって、世界に向かって、メッセージを発信し続けるべきではないのだろうか。

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