NHK「日本のこれから 考えてみませんか?憲法9条」
NHKの「日本のこれから 考えてみませんか?憲法9条」を見た。
番組のホームページ(http://www.nhk.or.jp/korekara/)によると、コンセプトは、以下のとおり。
今年、日本国憲法は施行から60年を迎えました。また、5月には憲法改正の手続き法にあたる国民投票法が成立しました。こうした中、改憲の是非を巡り様々な議論が巻き起こっています。
9条を改め、正式な軍を持つことを明記すべきだという考え方もあれば、戦力の放棄を掲げた憲法は世界的にも貴重で改めるべきではないという考え方もあります。
そこで、終戦の日である8月15日に、一般視聴者や有識者の皆さんをお招きして徹底的に討論します。
賛否についての数字を出してなかったので、正確には分からないが、一般視聴者の9条の改憲賛成派と反対派は、ほぼ同数という印象だった。
率直に言って、驚いたのは、改憲を支持する方々の主張の中に、極めて理念的・抽象的な内容が多かったことだ。中には、論理の展開が急で(論理の飛躍と言ってもよい)おっしゃることの意味が咀嚼しきれないケースも散見された。感情的な不規則発言も目立ったかなと思う。改憲派の主張に虚心に耳を傾けてみたいと思って見始めたので、もっと、現実から出発し、どうやって平和を守るべきなのかという論理の展開を期待(?)していたが、肩すかしをくらった。
他方で、改憲に反対する人たちの主張は、むしろ、とても現実的で、具体的な事実を踏まえて、押さえ気味に話していたという印象を持った。
護憲=理想主義、改憲=現実主義という図式化は、昨日の番組を見る限り、当たっていない。
結論が先にありきは、むしろ改憲派なのではないかとも思った。
なお、NHKが用意した映像の中のあるフリーターの人が、9条改正に賛成し、「このまま生きて、死んで行っても、それだけのことだが、戦争が起きて、兵隊に志願して戦死すれば、英霊かどうかはともかくとして、国のために死んだと評価される」という趣旨の発言をされていたのが、とても強く心に残った。
彼が何故そういう発言をしたのかについてまでは掘り下げていなかったので、真意は分からない。ただ、NHKが敢えてこの方の発言を用意したことからすると、その意味するところは、このままだと、ひたすらぎりぎりの生活を維持するために働き続け、働く意義や社会における自分の存在意義を感じることができずに死んで行くことになる。それならば、戦争でも起きて自分の「生」の意味を感じて死んでゆく方がよいという叫びではなかったかと思った。
彼は、真剣に生きる意味を考えようとしているからこそ、そういう発想に行き着いたのではないかと思うと、この国のありように、怒りを覚える。
憲法9条の問題は、生存権の保障とも深く結びついていると思う。
また、日本が軍隊を持ち、戦争になった時、まっさきに戦場に送られるのは、決して富裕層からでないことは、誰も否定しないだろう。アメリカの例からしても、生活のために志願をする人たちが戦場に送られる。先ほどの彼は、そのことも分かっているのだと思う。
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コメント
和歌山の金原です。NHKのこの番組は見逃しましたが、改憲派こそ理想主義者ではないのかという点について一言します。NHKの番組を見ていませんので、そこで登場した改憲派の主張は分かりませんが、改憲派といっても色々ある訳で、我々の同業者の中に多い改憲派は、「憲法9条は現実との乖離が甚だし過ぎる。次々と解釈改憲と称してなし崩し的に海外に自衛隊を派遣するところまで来てしまっており、憲法の規範性を取り戻すためにも、自衛隊を憲法上の組織として公認した上で、その活動領域を国内に限定するというしばりを憲法で明定する必要がある」というものです。実は、去る5月11日に、和歌山弁護士会主催による憲法施行60周年記念市民集会の第3部として、和歌山の弁護士4人(改憲派、護憲派各2人)が討論したのですが(私も出演しました)、その際の改憲派の主張が以上のようなものでした。改憲派全体の中では、このような主張は少数派なのかもしれませんが、これに対する私の感想は、「それは現実を踏まえない空論である」というものでした。時間の制約のため、いくつかの論点について各自が言いたいことを言うだけで、議論を深めることが出来なかったのは残念ですが。坪田先生の番組をご覧になっての所感とは多分趣旨がずれているだろうと思いつつ、和歌山弁護士会内における議論状況を思い出し、コメントさせて戴きました。
投稿: 金原徹雄 | 2007年8月17日 (金) 15時55分
こんばんは。
ブログへのコメントありがとうございました。
改憲派の方が「理想主義的」で「論理の飛躍」が出てくるようになったのは、つい最近というわけではないと思われます。
慶応大学教授・小熊英二は、新しい歴史教科書を作る会の政治運動を実証的に研究した「<癒し>のナショナリズム」で、すでにこのような理想主義的な保守を発見しており、名古屋大学教授・愛敬浩二の「改憲問題」も、「非現実的な改憲論」の実態を次々と暴いています。
そして、こうした「ロマンス保守主義」の一端を確実に担ったのは、今では反米自主独立路線で、親米的改憲論と一線を画している小林よりのりであるというのは、何かの皮肉かもしれません。
投稿: foresight1974 | 2007年8月17日 (金) 21時16分
金原さん、foresight1974さん、コメントありがとうございます。
私がNHKの番組を見て改憲を主張する人たちに感じた違和感がどこにあるのかを考えてみたのですが、それは、一見極めて現実的に見えつつ、実は、極めて論理の飛躍がある空想主義というところに(先日の番組に登場した)改憲論を唱える人たちの特徴があったからだと思います。その点で、金原さんが指摘されるような改憲論はほとんどなかったのです。
例えば、北朝鮮や中国を持ち出して、「あなたの家や家族が攻撃されれば、あなたは守ろうとするでしょう?国が攻撃されればそれを守るのは当然でしょう?」と、いかにも現に攻撃を受けているような夢想を前提に声高に主張する。
あるいは、集団的自衛権の問題の際(NHKの用意した具体例に問題があったので、議論は混迷したという側面があるが)、「あなたの友達が攻撃されたときに、黙って何もせずに見ているのか」と、とんでもない比喩を持ち出して(比較にも何もなりはしない)、だからアメリカが攻撃されたときに黙ってみていることなどできるはずがない、それこそ真実と主張する方。
正直言いますと、途中で見るのをやめようかと思いました。こんな話なら聞いていてもあまり意味がないと思ったからです。改憲論を虚心に受け入れて考えてみたいと思って見始めたので、これでは、改憲論に対して感情的反発を覚えるだけだとも思いました。それでも最後まで見たのは、ひょっとすると、こういう議論の仕方が最近増えているのかも知れないと思い直したからです。
foresight1974さんのご指摘を受け、もう少し勉強しなければと思いました。ありがとうございます。
投稿: 坪田 | 2007年8月17日 (金) 22時50分