福井県のカラ出張とは?(3)
昨日に引き続き、福井県のカラ出張問題について、整理する。
本日は、最高裁によって福井地裁に差戻しされた後の争点についてである。
第1の争点は、昨日の問題とほぼ同様である。
昨日の争点は、監査請求における監査の対象の特定の問題であった。
これに対し、本日説明するのは、訴訟における審判の対象の特定の問題である。
例えば、甲が乙に対して平成10年3月1日に期限を平成10年12月末日と決めて貸し付けた金100万円の返還請求を考えてみる。甲が乙に単に100万円を貸したから返せと言っても、それがいつ貸したどういう内容の貸金なのかが問題となる。ひょっとすると、甲乙間には他の貸し借りがあるかも知れない。最低でもいついくら貸したのかを明示しないと、乙も既にそれは返したと抗弁できる貸金かも知れないし、場合によっては時効にかかっているかも知れない、裁判所も判断ができないことになる。
久しぶりに民事訴訟法の教科書をひもといてみると、次のように書かれている。「『被告は原告に100万円支払えとの判決を求める』という請求の趣旨の記載だけでは、当事者間に種々の取引が行われているときには、いつの売買の代金なのか、あるいは、いつ借りた金の問題なのかは、はっきりしない。このようなときには、請求原因の記載によって、その給付請求権の発生原因事実を明らかにすることによって請求が特定される。請求を特定するに必要な限度の事実(どの程度のくわしさが要求されるかは、他に誤認混同のおそれがあるかどうかにかかる相対的な問題である)のみを指して、請求原因と呼ぶことが多い」とされている(新堂幸司著「新民事訴訟法」198頁)。
本件において、私たちは、元々平成6年4月から平成9年12月までの間のカラ出張総額21億6203万0384円のうち、福井県旅費調査委員会が「公務遂行上の経費に充てた」と認定した16億9395万8660円の返還を求めた。個々の支出を一つ一つ特定する必要などないと言っているのである。福井県旅費調査委員会は、旅費支出の一つ一つを検証して、カラ出張の事実を認定していったのであるから、既にカラ出張の具体的事実は一つ一つ検証され認定されているのである。また、その検証の経緯が分かる資料は、福井県には存在しているはずである。被告は、当該カラ出張があった当時の知事であり、本件提訴時点でも知事であった。福井県のトップであった被告は、福井県旅費調査委員会の調査結果及びその資料を容易に見ることのできる立場にあったのであるから、原告がこれ以上細かく特定しなくても、期間と金額を特定するだけで十分に認識でき、反論もできる。誤認混同のおそれもない。原告が他にもカラ出張があったと主張するのであれば、それらを具体的に主張しなければならないのであろうが、原告はこの福井県の行った調査結果(=カラ出張の認定及び範囲)自体を争っていない。よって、裁判所も、これらがカラ出張であることを前提に違法かどうかだけを判断すればよい。特定に欠けるところはないのである。
被告知事の主張は、監査請求の対象の特定の問題と同様である。一方で、旅費調査委員会が行った具体的資料の提供は拒否し、原告が自分で調査して、旅費支出一つ一つを主張すべきだと言いはなつばかりである。
どちらに理があるか。常識で考えれば、結論は明白である。
ちなみに、最高裁は、「第1審判決を取り消し,本案の審理をさせるため,本件を第1審に差し戻すのが相当である」と言っている。入口でごたごた言っておらず、中身を審理しろと言っている。(坪)
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