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2006年12月

2006年12月22日 (金)

福井県のカラ出張とは?(4)

 差し戻し審第2の争点は、知事の責任である。
 本件住民訴訟は、公金の支出の違法を理由に、知事にその返還を求めている。

 少し分かりにくいところなのだが、旅費を含めた公金に関する支出権限は、本来的に知事にあるが、行政実務では、どの自治体でも、「専決事項」として、首長は部課長クラスに内部的に権限をゆだねて処理をしている。あるいは、内部的に委任をしている場合もある。
 そうするとどうなるということが第2の争点である。

 元知事は、最高裁の次の内容の判決に従えば、知事に責任はないと主張している。
「右専決を任された補助職員が管理者の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。」

 もちろん、私たちは、最高裁判決を無視しているわけではない。しかし、本件カラ出張は、そういったレベルの問題だったのかが問われねばならない。
 旅費調査委員会の調査結果を見ればわかるとおり、福井県では、カラ出張が全庁に長期間にわたって蔓延していた。しかも、平成6年から9年と言えば、福井県のみならず、全国的に自治体におけるカラ出張が問題になっていたのであるし、それを受け、平成8年12月19日付で、自治事務次官から都道府県知事等宛に「行政及び公務員に対する国民の信頼を回復するための新たな取組等について(通知)」という文書が送られていて、そこには、「最近、地方公共団体の一部において、旅費、食糧費等の不適正な執行が問題となっていることについては、国民の間に地方公務員への不信感を惹起させ、ひいては行政に対する信頼を損ないかねないものであるので、各地方公共団体においては、公務員倫理の確立と厳正なる予算の執行を図られるよう特に留意されたい」旨記載がなされていた。
 このように全国的にカラ出張が問題となって、新聞紙上では、頻繁に指摘がなされていた上に、自治事務次官の通知に接し、知事は何をしていたのかという問題である。
 私たちは、日常的な旅費支出をチェックするという問題ではもはやなくなっていたと考えている。まさしく本来的な支出権限者である知事の出番だったはずなのに、有効な手だてをとらず、結果として、この事務次官の通知以降もカラ出張は全庁に続いていたのである。最高裁判決に従ったとしても、「指揮監督上の義務」違反の責任は重いと言わざるを得ない。

 なお、私たちは、平成5年6月から平成9年11月までの新聞記事を手分けして調査し、整理したものを裁判所に提出した。全国の多くの自治体で蔓延していた状況が改めて明らかになったし、記事の中には、全国市民オンブズマン連絡会が福井県におけるカラ出張の疑いが極めて強い出張を指摘したとの報道もあった。平成8年7月27日のことです。この指摘を受けて、福井県は、知事は、どうしたんでしょうね。(坪)

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2006年12月21日 (木)

福井県のカラ出張とは?(3)

 昨日に引き続き、福井県のカラ出張問題について、整理する。

 本日は、最高裁によって福井地裁に差戻しされた後の争点についてである。

 第1の争点は、昨日の問題とほぼ同様である。
 昨日の争点は、監査請求における監査の対象の特定の問題であった。
 これに対し、本日説明するのは、訴訟における審判の対象の特定の問題である。

 例えば、甲が乙に対して平成10年3月1日に期限を平成10年12月末日と決めて貸し付けた金100万円の返還請求を考えてみる。甲が乙に単に100万円を貸したから返せと言っても、それがいつ貸したどういう内容の貸金なのかが問題となる。ひょっとすると、甲乙間には他の貸し借りがあるかも知れない。最低でもいついくら貸したのかを明示しないと、乙も既にそれは返したと抗弁できる貸金かも知れないし、場合によっては時効にかかっているかも知れない、裁判所も判断ができないことになる。
 久しぶりに民事訴訟法の教科書をひもといてみると、次のように書かれている。「『被告は原告に100万円支払えとの判決を求める』という請求の趣旨の記載だけでは、当事者間に種々の取引が行われているときには、いつの売買の代金なのか、あるいは、いつ借りた金の問題なのかは、はっきりしない。このようなときには、請求原因の記載によって、その給付請求権の発生原因事実を明らかにすることによって請求が特定される。請求を特定するに必要な限度の事実(どの程度のくわしさが要求されるかは、他に誤認混同のおそれがあるかどうかにかかる相対的な問題である)のみを指して、請求原因と呼ぶことが多い」とされている(新堂幸司著「新民事訴訟法」198頁)。

 本件において、私たちは、元々平成6年4月から平成9年12月までの間のカラ出張総額21億6203万0384円のうち、福井県旅費調査委員会が「公務遂行上の経費に充てた」と認定した16億9395万8660円の返還を求めた。個々の支出を一つ一つ特定する必要などないと言っているのである。福井県旅費調査委員会は、旅費支出の一つ一つを検証して、カラ出張の事実を認定していったのであるから、既にカラ出張の具体的事実は一つ一つ検証され認定されているのである。また、その検証の経緯が分かる資料は、福井県には存在しているはずである。被告は、当該カラ出張があった当時の知事であり、本件提訴時点でも知事であった。福井県のトップであった被告は、福井県旅費調査委員会の調査結果及びその資料を容易に見ることのできる立場にあったのであるから、原告がこれ以上細かく特定しなくても、期間と金額を特定するだけで十分に認識でき、反論もできる。誤認混同のおそれもない。原告が他にもカラ出張があったと主張するのであれば、それらを具体的に主張しなければならないのであろうが、原告はこの福井県の行った調査結果(=カラ出張の認定及び範囲)自体を争っていない。よって、裁判所も、これらがカラ出張であることを前提に違法かどうかだけを判断すればよい。特定に欠けるところはないのである。

 被告知事の主張は、監査請求の対象の特定の問題と同様である。一方で、旅費調査委員会が行った具体的資料の提供は拒否し、原告が自分で調査して、旅費支出一つ一つを主張すべきだと言いはなつばかりである。

 どちらに理があるか。常識で考えれば、結論は明白である。

 ちなみに、最高裁は、「第1審判決を取り消し,本案の審理をさせるため,本件を第1審に差し戻すのが相当である」と言っている。入口でごたごた言っておらず、中身を審理しろと言っている。(坪)

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2006年12月20日 (水)

福井県のカラ出張とは?(2)

 先日(10月14日)に引き続き、福井県のカラ出張問題について、書いておきたい。

 この裁判の第1の争点は、この裁判が最高裁まで行き、そして差し戻しになった理由にかかる入口論の問題であった。

 一言で言うと、「監査請求の対象の特定」ということになる。

 問題のカラ出張は、先日書いたとおり(http://3courage.cocolog-nifty.com/ombuds_fukui/2006/10/post_cdf7.html)、平成6年4月から平成9年12月までの長きにわたるカラ出張である。

 出張に行ったことにしてお金を引き出すというのであるから、単価はそれほどのものではない。福井県旅費調査委員会の調査結果を見ると、21億6203万0384円は、15万5465件の架空の出張の蓄積である。単純に割り算をすると、1件あたり1万3906円である。

 福井県自身が設置した旅費調査委員会が相当の時間をかけて調査し、カラ出張の合計額を円単位で報告しているのだし、私たちは、個々の支出ごとの状況を問題にしているのではなく、実際に主張していないのに出張をしたかのように装って支出したこと自体を(だけを)違法としているのだから、個々の支出ごとに検証する必要はない。監査委員(ひいては裁判所-裁判所は訴訟の対象の特定の問題に関わる)はその点だけに限定して判断すればよいはずである。これが私たちの主張である。

 これに対し、福井県は、支出は、本来、個々の支出ごとに違法性が問題になる。だから、例えば、「平成6年4月12日に東京に出張し、その支出が3万8000円とされているが、実際にはその日に東京には行っていないのだから、これが違法である」というように、個々の支出ごとに具体的に主張すべきだとする。

 納税者の立場にある県民の皆さんはどう思われるだろうか。
 旅費調査委員会は、相当の時間をかけて(結果として税金を使って)、旅費支出一つ一つを検証し、前記の金額と件数のカラ出張が存在することを確認した。だとすれば、その全てが違法であることは、余りにも明らかであり、いまさら改めて旅費支出一つ一つを検証し直す必要などないし、無駄でもあるし、県民がそれをやることは、物理的に不可能でもある。
 裁判では、争いのない事実という考え方がある。ある意味、前記の総額21億6203万0384円がカラ出張であった事実は、争いのない事実である。その争いのない事実を所与の前提として判断をすればよいのであって、改めて、その一つ一つを検討すべきではない。訴訟経済(監査だから「監査経済」と言うべきか?)の無駄というものだ。

 最高裁の判決のこの問題に関する判断は、以下のとおりである。極めて常識的な判断である。
「前記事実関係等によれば,本件監査請求は,旅費調査委員会等の各調査においてそれぞれ事務処理上不適切な支出とされたものである本件各旅費の支出違法な公金の支出であるとして,これによる県の損害をてん補するために必要な措置を講ずることを求めるものであり,旅費調査委員会等の各調査においては,それぞれ対象とする旅費の支出について1件ごとに不適切なものであるかどうかを調査したというのであるから,本件監査請求において,対象とする各支出,すなわち,支出負担行為,支出命令及び法232条の4第1項にいう狭義の支出について,支出に係る部課,支出年月目,支出金額等の詳細が個別的,具体的に摘示されていなくとも,県監査委員において,本件監査請求の対象を特定して認識することができる程度に摘示されていたものということができる。そうすると,本件監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはないというべきである。」
(坪)

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